「実用メカニズム事典」の類書たち

 Project Gutenbergで公開されているE. S. Fergusonの「KINEMATICS OF MECHANISMS FROM THE TIME OF WATT」から持ってきた画像だ。

 ご覧のように、メカニズム・仕掛け・からくり・機構についての文献や機構模型やサイトについて紹介したい。死蔵していた情報の供養も兼ねている。

 

文献

図鑑

図鑑と思いたくなるほど、沢山のカラクリが図示されている本を紹介する。

  • 実用メカニズム事典、岩本太郎

この類の中でかなり新しい本だ。ネット通販が普及した後の本だし、ずいぶん好意的なコメントが集まっている気がする。表紙の通り101個からくりが載っていると思う。

比較的新しい本だから、書店やECサイトで新刊が入手できる。

 

1912年明治45年に初版が出版された古い本だ。重版が何度も行われ、復刊の要望もあったらしい。「新編機械の素」という書名で豪華な体裁での復刊もされたこともある。数え間違えがなければ、723個からくりが載っていた。

現在最も入手性が良い復刊は、伊藤茂の「メカニズムの事典」だと思う。また、国立国会図書館デジタルコレクションでログイン無しで閲覧可能だ。加えて、「新編機械の素」が国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスや図書館送信サービスから閲覧可能だ。

 

  • カニズム、別役万愛

1937~1955年あたりで初版が出版された古い本だ。少なくとも1990年までに19回も重版したのを確認している。東京堂の出版年鑑 昭和13年には、以下の紹介文が載っていた。

「専門学校程度を標準として機構二千数百種を選び図解す」

この紹介文にもとづけば、二千数百種ほどの機構が紹介されていることになる。入手してみたら、550ページに渡り機構の図と少しの説明文が並んでいた(実際に数えていないがからくりが沢山あるのは確か)。

国立国会図書館デジタルコレクションで、個人送信サービスや図書館送信サービスから閲覧可能だ。

 

  • 応用機構学、服部敏夫

1968年に日本で初版が出版された。少なくとも1987年までに10回も重版したのを確認している。この類の本の中で比較的新しく、著者が計測系の著書を多数出しているためか、からくりに加えて真空管を用いた電気電子的な機構や計測器の機構が載っている。からくりの具体的な個数は知らないが、沢山あるのは確かだ。

国立国会図書館デジタルコレクションで、個人送信サービスや図書館送信サービスから閲覧可能だ。

 

  • 機械機構学、山本福一

1957年に日本で初版が出版された。少なくとも1969年までに13回も重版したのを確認している。数え間違えがなければ、287個からくりが載っていた。

国立国会図書館デジタルコレクションで、個人送信サービスや図書館送信サービスから閲覧可能だ。

 

  • 機械運動機構、芦葉清三郎

1957年に日本で初版が出版された。ちなみに、「機械運動機構1422」という書名で台湾向けに出版されたこともあるらしい。掲載されているからくりの総数が書名に載っていると仮定すると、この本に載っているからくりの数は1422個なのかもしれない。この本を入手してみると、からくりが多数紹介されており「機械の素」と似た印象を受けた。この本は、著者が以前に出版した「機械運動」の増補改訂版らしい。

国立国会図書館デジタルコレクションで、個人送信サービスや図書館送信サービスから閲覧可能だ。「機械運動」も同じく閲覧可能だ。

 

  • Five Hundred and Seven Mechanical Movements, Henry T Brown

1870年頃が初版だと思われる、かなり古い本。英語圏での知名度はかなりあるのではなかろうか。からくりに1つ1つに通し番号がついていおり、からくりが全部で507個載っている。

「507 Mechanical Movements」という書名で、英語圏の出版社が重版し続けているから、復刊の入手性は高い。本をデジタル化したモノが外国の電子図書館で公開されているから、わざわざ買わなくても内容を読むことができる。外国語訳として、台湾の「圖解507種機械傳動」、フランスの「507 Mouvements mécaniques」、ドイツの「507 Bewegungsmechanismen」が出版されている。このドイツの本は外国の電子図書館で公開されている。

 

  • The Engineer's Sketch-book of Mechanical Movements, Thomas Walter Barber

1889年頃が初版だと思われる、かなり古い本。ちなみに、「圖解2603種機械裝置」という書名で台湾向けの復刊がある。復刊したときの名前を参考にすれば、2603個ほどからくりがあるはず。また、「A Victorian Handbook of Mechanical Movements」という書名でDover Publicationsが復刊している。

古い本であるから、デジタル化したモノを外国の電子図書館で読める。また、先程の復刊が購入可能だ。

 

  • Mechanical movements, powers and devices, Gardner Dexter Hiscox

19世紀末に出版されたかなり古い本。復刊したときの名前を参考にすれば、1800個ほどからくりがあるはず。その復刊は「1800 Mechanical Movements」という書名でDover Publicationsが出版している。ちなみに、「Elementos de Màquinas - Dispositivos Mecànicos」というスペイン語訳がある。

古い本であるから、デジタル化したモノを外国の電子図書館で読める。また、先程の復刊が購入可能だ。

 

  • Mechanical Appliances Mechanical Movements And Novelties Of Construction, Gardner D Hiscox

1904年頃が初版だと思われる、かなり古い本。同じ書名でDover Publicationsが復刊している。永久機関を紹介している点がこの本の特徴だと思う。からくりの具体的な個数は知らないが、沢山あるのは確かだ。

古い本であるから、デジタル化したモノを外国の電子図書館で読める。また、先程の復刊が購入可能だ。

 

  • Ingenious Mechanisms For Designers and Inventors, Jones Franklin D

1930年頃が初版だと思われる、古い本。クソ高価だが復刊があるらしい。からくりの具体的な個数は知らないが、沢山あるのは確かだ。ちなみに、「Mechanisms and mechanical movements」とう同著者による似た著書があるが、Ingenious Mechanismsの方がカラクリが豊富だと思う。全5巻の内の第2巻のみ、秋山武の「インヂニアス・メカニズム 最新応用機構学」という邦訳がある。残念ながら、他の巻数の邦訳を確認できなかった。

「最新応用機構学」は国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスや図書館送信サービスから閲覧可能だ。古い本であるから、デジタル化したモノを外国の電子図書館で読める。また、先程の復刊が購入可能だと思う(たぶん)。

 

  • Механизмы в современной технике, Artobolevskiĭ Ivan Ivanovich

情報が少なすぎて確かなことを言えないが、からくりの類書だと思う(たぶん)。

邦訳の「現代機械技術の実例機構便覧」、フランスの「Les mécanismes dans la technique moderne」、英訳の「Mechanisms In Modern Engineering Design」がある。

Mechanisms In Modern Engineering Designを外国の電子図書館で読める。

 

その他

読んでいない本があって確かなことを言えないが、からくり関係の本だと思われる本を列挙する。ご自分で確かめていただきたい。

 

設計者のためのカム機構図例集、日本カム工業会技術委員会

必携「からくり設計」メカニズム定石集、熊谷英樹

必携「からくり設計」メカニズム定石集 Part2、熊谷英樹

​​「か​ら​く​り​設​計」実​用​メ​カ​ニ​ズ​ム図​例集​、熊谷英樹

めっちゃ、メカメカ!リンク機構99→∞、山田学

めっちゃ、メカメカ!、山田学

機械設計 2021年8月特別増大号、日刊工業新聞社

からくり改善事例集 Part1~4、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会

自動化ブックス
 ├ハンドリングの自動化図集
 ├不等速伝動装置
 ├変速装置
 ├動力変換機器
 ├動力伝達とその制御
 ├治具取付具の自動化図集
 ├制御と計測

新実践自動化機構図解集、熊谷英樹

実践自動化機構図解集  続、熊谷英樹

自動化機構300選、熊谷卓

着想メカニズム設計、和田忠太

デザインアイデア200選、田村均

メカアイデア事典、日経メカニカル

メカアイデア1454、日経メカニカル

メカ発想術、日経メカニカル

機械機構設計ノート、大滝英征

ロボットのための"機構"アイデアブック、清水優史

図解メカニカルハンド、加藤一郎

図解ロボットハンド、加藤一郎

治具・取付具実用図集、ハイラム・E.グラント

治具取付具の自動化図集、藤森洋三

機構デザイン実用アイデア図集、藤森洋三

からくり改善虎の巻 やさしい小学理科はアイデアの宝庫!、TPMエイジ編集部

自動位置決め図集、自動化技術編集部

 

機構模型

File:Cabinet-sebastien-leclerc-1713.jpg

 セバスチャン・ルクレールは18世紀初頭にパリ科学アカデミーの模型陳列室を描いた。

 機械の仕組みを視覚的に示したい時、現代では3Dモデルを画面に写してしまうのが一般的だと思う。しかし明治〜昭和のような時代では、視覚的に伝えるために模型を作ってしまうこともあったらしい。そのような時代に作られ使われたであろう機構模型を保存している(確証はない)ところを並べた。

タモリ倶楽部で放送された「気持ちいい歯車模型決定戦!!」で、機構模型が登場している。機構模型が展示されているらしい。この資料館の開館日がえらい少ないので要注意。

 

日本機械学会が認定している機械遺産の一つに「工部大学校の「機械学」教育機器およびC.D.ウエスト関係資料群」がある。その一部として機構模型が含まれており、東京大学総合研究博物館が運営に参加しているインターメディアテクで展示されている。インターメディアテクの展示物索引から展示物の写真を見れる。

昔の工作機械が多数展示されている。他にも展示物があるようで、それらの1つとして機構模型がある。事前予約する必要があるらしい。

行ったことがないので、展示しているのか知りません

2000年代初頭のウェブページに収蔵されていそうな情報があったが、現在展示されているのか知らない。行ったこと無いもん

 

収蔵しているが展示していない無いと思う。

 

ウェブサイト

  • thang010146 - YouTube

    3Dモデルが動いている様子を見ることができる。紹介されているモデルの数が多いように思えるのは私だけだろうか?篤志家なこの方は、今まで作成してきた多くのモデルを分類してまとめ、モデルの図にその説明とYoutubeのリンクを載せたPDFを作成している。
  • DMG Lib: DMG-Lib Home + News

 

あとがき

 今の所、私はこれらの情報を上手く扱うことができていない。作りたいものがなかなか思い浮かばず、からくりを作ってみようという気にならないからだ。私の現状をアナロジーで表現してみれば、「表現したい事柄を持ち合わせていない人が辞書を手に入れたところで言葉で表現するようになるのか?」な気がする。調べたことがもったいないので、作りたいものがある人たちに役立てていただきたい。

 

 文献探索で、未だ調べきれていない事がいくつかあると思う。思いつくものを以下で列挙するので、興味があればご自分で調べていただきたい。

英語圏での文献探索が得意ではないし、英語圏以外ではそもそも探していない。かの有名な機械工学者フランツ・ルーローの母国ドイツの類書は無いだろうか?フランスは?産業革命が最も早く始まったイギリスで他にも出版されていたのではないか?「実用メカニズム事典」のような「新しい本」が英語圏で出版されていないだろうか?著作権の保護期間で守られている書物の中に類書があるのではないか?(著作権の保護が切れるとネットで公開されやすくなる)20世紀の類書をなかなか見つけられないのはなぜか?からくりではなく電気電子的に問題を解決しようとする風潮が強くなってきたのか?カムのように機械的に制御して大量生産していた時代があったのだから、その時代の知識がどこかに集積されていないだろうか?特許で集積されているのか?からくりという括りで一冊の本にまとめることに意味が無くなるくらい、知識が専門化・複雑化・膨大になっていったのだろうか?